賃貸住宅を借りるとき、多くの場合不動産屋さんで大家さんと会い、そこで契約をして諸々の手続きが終わったところで、晴れてあなたに部屋の鍵が渡されることになります。
でも、どう見てもその鍵が新品ではなく古いものだった場合、多少の不安を覚えるのも当然です。自分の身の安全を自分で守るために、借主が鍵を取替えたり新たにつけて2ロックにするのは契約上どうなんでしょうか?
鍵も時代の流れと共に
その昔、まだ日本がのんびりしていた時代にはおそらく「この鍵は大丈夫なんだろうか?」と悩む人はほとんどいなかったのではないかと思われます。なにせ当時はまだ「下宿」というシステムが一般的で、共同玄関に共同トイレ、自分の居室の鍵はほんの申し訳程度だったのです。
また、鍵も入居者が出て行ったらそのまま交換することなく次の入居者に使いまわされるのが当たり前でした。なぜなら当時はまだ賃貸住宅の物件そのものが少なく、「そういうものなんだ」と納得していたし、そもそも人間関係が今よりも密だったため、犯罪の懸念が少なかったというのもあるでしょう。でも、現代はそうはいきません。
基本は鍵交換
今の賃貸住宅では、入居者が入れ替わる場合には鍵を交換することになっています。当然のことながら防犯上の理由です。自分の前に誰がその部屋に住んでいたのかはわかりませんから、どこの誰とも知らない人が今自分が住んでいる部屋の鍵を持っているというのは気分がいいことではありません。
特に女性の一人暮らしなら怖いですよね。もちろん鍵は退去の際に返しますが、合鍵を作ってそれをキープしているかどうかはわかりませんよね。
そこで、退去をする際には鍵を渡した本数プラス自分で合鍵を作ったものも返してもらった上で、次に入居するひとのために鍵を交換します。以前は「鍵交換代」として当たり前に借り手に鍵の交換費用を請求していましたが、今では鍵は家の設備の一部なので、費用は大家側が負担という理解が一般的になっていますし、国土交通省のガイドラインでもそう書いてあります。
もし、あなたが入居の時に「鍵交換費用」を要求されたら、「それは大家さん側の負担のはずでは?」と言ってみましょう。当然の権利です。ただし、契約書の段階で「入居者負担にする」と書かれている場合には、あなたが負担することになりますから、必ず契約前に訊いてみましょう。
交換したから安全か?
鍵を交換したら安全なのかというと、必ずしもそうとは言えません。中には、「鍵は交換してありますから」と言われて渡された鍵をしげしげと眺めてみると、どう見ても年代もので新品には見えない場合も結構あります。これが鍵交換の落とし穴です。
鍵を取り替えるのは誰?
通常鍵の取り替えには約1万5,000円〜かかります。この費用がもったいないということで、アパート経営をしている大家さんの中には、自分たちでDIYで交換するというケースが結構あります。当然大家さんはプロの工務店ではありませんから、今ひとつ不安は残りますよね。
鍵のローテーション
さらに大きな問題がこれです。いちいち新品の鍵を買うのはもったいないということで、いくつかの鍵をローテーションで交換している場合があります。
たとえば、部屋数が8室のコーポを持っている大家さんがいたとして、たまたま2号室の入居者と8号室の入居者が同時期に退去する場合、2号室の鍵をとって8号室に、8号室の鍵を2号室に付け替えることで「鍵交換しました」ということにしてしまうケースもあります。
また、一つの部屋の鍵を2つ用意して、入居者が変わるたびに交互に入れ替えるだけということもあります。いずれにせよ、あなたが借りた部屋の合鍵を誰かまったく知らない人が持っているという危険性があるので、借りる前に鍵を交換する際の手順についても訊いておきましょう。
そもそも鍵のタイプが古い
「ピッキング」という犯罪について知らない人はもはやいないと思います。専用の道具を鍵穴に差し込み、いとも簡単に解錠してしまうこの犯罪、手際のいい犯罪者ならほんの数秒でドアを開けてしまいます。
実際に都心部のある雑居ビルではたった数時間で入居している部屋全てに侵入され、高価なパソコン類がごっそり盗まれるという事件もありました。私たちがよく見る古いタイプの鍵は、ピッキング犯にとってはおもちゃのようなもの。気をつけなければいけない鍵のタイプを知っておきましょう。
ディスクシリンダー錠
よく見る上下にギザギザになっている鍵を鍵穴に差し込んで回して解錠するタイプです。残念ながらピッキング犯に対する防御力はほぼ0です。もし、この鍵が使われていたら即刻交換したほうがいいでしょう。
ピンタンブラー錠
鍵のギザギザが片方だけについている鍵で、よくロッカーの鍵に使われているタイプです。クラシックなディスクシリンダー錠よりは防犯性は少しまし、という程度で、これだけで施錠するのは危険と言わざるを得ません。
やっぱり鍵を取り替えたい!
上記に書いたように、大家さんがどうやら鍵をローテーションして使っていることがわかったとか、鍵自体が古いディスクシリンダー錠で防犯面が不安という場合、自分の身を守るためにも鍵を交換したいですよね。でも、自分が怖いからって勝手にやってもいいわけがないことはなんとなくわかりますよね?
まずは相談
鍵を取り替えたいと思ったらまずは不動産屋さんに相談してみましょう。そこで大家さんに連絡をとってもらって、大家さんが「それじゃあ」と費用をもってくれて取り替えてくれるならラッキーです。ありがたくやってもらいましょう。
ただ、大家さんが費用的な面で渋った場合は、自分で費用を出して鍵を交換させてもらうという道もあります。この場合は必ず相談し、許可をとりましょう。
原状回復の必要性は?
賃貸住宅を借りたら、「原状回復の義務」といって借主は退去する際に元通りの形に戻すことが義務付けられています。つまり、あなたが鍵を取り替えて前よりもグレードアップしたとしても、法的な義務としては出るときには前の鍵に戻さなければいけません。
そこまで杓子定規に考える大家さんかどうかは人によりますが、鍵の交換をしたら、出る時に戻せるように前の鍵を大事に保管しておきましょう。
鍵を預ける必要はあるのか?
賃貸住宅で鍵が何本かある場合、大家さんと不動産業者がそれぞれ鍵をキープし、残りを借主が持っているというケースが多いと思います。自分で鍵を取り替えた場合、スペアキーを預けるかどうかはケースバイケースになるので、よく相談してください。
最近は大家さんや不動産屋のほうでも鍵の預かりはしないというところも増えています。夜中に「鍵をなくしたから開けてくれ」と叩き起こされたりして煩わしいので、鍵に何かあったら自己責任でお願いします、というのがその理由です。
どうせ変えるなら進化系のシリンダー錠
最近一般的によく使われているのは、ディンプルキーと呼ばれるものではないでしょうか。薄い鍵本体にポツポツとくぼみがあるこのタイプは複雑なため、現在のところはピッキングは非常に困難とされています。もっとも、敵も技術開発には余念がありませんから、未来永劫安全とは言えません。
当たり前ですがあなたが家にいる時もいない時も鍵はあなたを守ってくれる大切なツールです。ちょっとでも気になることがあるなら、許可をとった上で自分が納得できる鍵に取り替えたほうが精神衛生上もよいのではないでしょうか。